野放しの中高年転職ビジネス
− やりきれなさ残る爆破事件 −


 事件から1週間たつが、いまもあの強烈な映像が瞼に残っている。名古屋の人質立てこもりビル爆破事件である。
日刊スポーツの記事画像
 先週の火曜日、いつものテレビ朝日の夕方のニュース番組「スーパーJチャンネル」に出演するため、大阪空港から飛行機に乗る直前、立てこもり事件の発生を知った。東京に着くなり爆発炎上、死傷者が出ているという一報が入った。局に飛び込むと、あの爆発の瞬間が繰り返し流れている。中継を予定していた系列局の名古屋テレビのカメラアシスタントも怪我をしているという。

 結果は犯人が立てこもった「軽急便」の支店長や突入部隊の警察官、それに容疑者も死亡、負傷者は43人という悲惨な事件になってしまった。

 ただし、きょうはこの事件を振り返ろうというのではない。私の中になんともやり切れないジレンマがあるのだ。死亡した容疑者の犯行は断じて許せるものではないことは明らかだ。だからメディアとしては、この男の立場なんぞを書くのは憚られる。肩を持っていると取られたくない。

 だけど、この52歳の男が要求した3か月分の給料は25万円、ひと月にすると、8万円だ。これが当たり前のことなのか。なのにこの軽急便のシステムでは、委託宅配の契約を結んだときに、100万円で軽トラ購入のためにローンを組まされる。その上、指導料として、30万円。求人広告にあった「月収30万円から50万円」の収入を得られるのは、まれなケースという。

 地元、名古屋のある弁護士事務所の話では、ここ2年で委託宅配に転職してみたものの結局は自己破産したケースが6件にも上るという。何よりもこのシステムがいけないのは、他の同業者は地域ごとに委託契約者の数をしぼって競合しないように配慮している。なのにこの会社は契約者を次々に増やして行く。そうなれば1人あたりのパイがどんどん小さくなって行くのは当たり前じゃないかというのである。

 昨年の統計を見ても、犯罪発生件数は右肩上がりで毎年、増え続けている。この数字を押し上げているのは、相変わらずの少年犯罪と、もう一つは中高年の犯罪の激増である。ちょっと前までは「キレる」というと未成年者のおハコだった。それがいまでは今回の事件のようにいい年をした大人がキレまくっている。

 その裏には、こんな中高年を対象にしたビジネスがまかり通っていることも、一因としてあるのではないか。郵政の民営化と言えば金切り声で怒り出し、ドンキホーテがテレビ電話で夜中でも薬を販売すると言い出せば、寄ってたかって潰しにかかる。なのに、こんな転職ビジネスにはなんの規制の網もかからなくていいのか。

 追い詰められた中高年の最後が自殺か、キレるではあまりにも悲しい。

(日刊スポーツ「ニッカン特別講座」大阪エリア版 毎週水曜日担当)