『安定・安心の軽急便』 会員が安心していられない 2003/09/24

 今回の事件の舞台となった軽急便のホームページの独立開業オーナー募集のページには、まず、『安定・安心の軽急便があなたの独立をサポートします』という大きな文字の誘い文句がある。

 続いて、『軽急便の提案するビジネスは、楽して儲かる仕事ではありません。しかし働けば働いた分だけ収入アップになるので、とてもやりがいのある仕事です。成功の鍵は、あなたのやる気と向上心です』に始まる案内文が続いていた。

 軽急便は自社で営業車両を持たず、契約を結んだ「個人会員」に運送業務を委託する形の営業システムになっている。荷物の移送には会社の指定する三菱製(三菱自動車工業が大株主であるという情報もある)の仕様車を使うように定めており、会員は個人事業者として契約し、100万円前後でその専用車両を購入する他、登録料7万円、指導料7万円を支払い、事業を始める。

 別府容疑者は1月に契約して、3月から荷物の配達を開始した。その際、頭金約60万円と会社が指定する信販会社の60回払いのローンで約105万円の軽ワゴン車を購入したという。

 軽急便の会員は荷主の都合に合わせれば月に40〜50万円の収入が可能との話だが、別府容疑者の売り上げは7月から9月までで約25万円にとどまるなど、伸び悩んでいた。
 
 テレビカメラの前で、「募集の広告ほど稼げない。文句を言ったらやめろと言われる」と不満をぶちまける同社の会員がいたが、実際に、全国で年間約300人の会員ドライバーが辞めていくとのことで、「半分くらいは、考えていた収入に達しないということが理由なのではないか」と社長も語っている。

 “安定・安心の軽急便”とは、「仕事は安心できる人に回るものだ」と村上社長がマスコミに語っていた通り、それは、会員の生殺与奪を会社なり配車担当者なりが握り、会社が安心していられるシステムを意味している。

 また、“独立開業”“成功の鍵はあなたのやる気と向上心”と言っても、「やる気と向上心」が会社に認められ、「安心できる人」と認定されれば、おいしい仕事がどんどん回って来るが、そうでないと、仕事が回って来なかったり、わがままで身勝手な取引先を担当させられ、苦労する可能性もあるということである。


※ 軽トラックを使う運送業界では、代理店契約を結んだ人と運送業者の間で契約トラブルが目立っているとのことである。国民生活センターへの相談は、データを取り始めた2000年度に400件だったが、2001年度548件、2002年度637件と年々増加している。「求人広告に比べ収入が少な過ぎる」といった内容がほとんどだという(編集部注:9月17日付朝刊「毎日新聞」によるデータです)。