space軽貨物運送に成長の死角/ビル爆発事件と「配送内職問題」
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 「配送内職」。国民生活センターに寄せられる相談の中で、こんな項目に区分される件数が急増中だ。「期待した収入が得られない」といった相談が2002年度に637件あり、前年度比で16%も増えた。

 9月16日、軽貨物運送の軽急便(名古屋市)名古屋支店で起きた立てこもり・ビル爆発事件は、この件数増加と無縁ではない。爆発で死亡した容疑者は、個人事業主として同社と業務委託契約を結ぶ配送内職従事者だった。犯行動機の一つに、割り振られる仕事や収入の少なさがあったとされる。

 容疑者のように、軽トラックなどの車両を所有して配送を請け負う個人事業主は全国に約13万人いる。1900人と契約する軽急便の2003年3月期の売上高は約66億円で、業界でも大手3社の一角に入る。

「規格外」荷物に照準

 軽貨物運送各社が受注獲得を狙うのは、大手運送会社が規格外として扱わない荷物。植木のように、重量や寸法を基にした価格設定が難しいものや、配送先での陳列を伴う品物なども含まれる。

 「荷物の形態や配送の時間帯といった問題で、大手運送会社が顧客に取り込めない荷主はまだ多い」。ヤマト運輸の山崎篤社長もこう認める。実際、業界最大手で唯一の上場企業である軽貨急配の2003年3月期の連結売上高は361億円と前期比12%伸びている。

 ただ、軽貨物運送の現状を検証すると、二つの危うさが浮かび上がる。その一つは、軽貨物運送会社の顧客開拓戦略と個人事業主の意識のズレだ。

 同業他社との価格競争に巻き込まれずに顧客を拡大するには、サービスの差別化が欠かせない。配送時間が早朝や深夜、休日に指定される仕事や、陳列、据えつけなどの作業を伴う配送を引き受ければ、注文増が期待できる。こうした仕事は料金も高いため、運賃の8割前後とされる個人事業主の実入りも多くなる。

 しかし、実際には、個人事業主の側が平日の昼間、しかも受け渡しだけで済む仕事を望む場合が多い。「軽貨物運送会社は『月収30万〜40万円以上』『自分の裁量で働ける』などのうたい文句で個人事業主を集めるが、平日の昼間しか働かないという感覚では高収入は望めない」(業界関係者)。勤務時間や収入に関して、両者の間に大きな認識の隔たりがあるのが実態だ。

 二つ目の問題は、大半の軽貨物運送会社が、個人事業主に対する配送用車両の販売を収益の大きな柱としていることだ。軽貨物運送会社の中には、車両販売で売上高の2〜3割、利益の6割以上を稼いでいる例もあるという。

 最大手の軽貨急配も、2003年3月期連結決算では、車両販売を中心とする「開発事業」の利益が配送事業の約6倍に上る。同社は「個人事業主に対する収入保証の拡充など、特殊要因で配送事業の利益が目減りした。その分などを勘案すれば、両事業の利益はほぼ拮抗する」としている。

車両代金払えぬケースも

 軽貨物運送会社が配送網を拡充している今の局面では、車両販売の売り上げ、利益が伸びるのは、やむを得ない面もある。しかし、これが恒常的な車両販売への依存に結びつけば、事業モデルが大きく歪む可能性がある。

 個人事業主の中には、事前に期待した収入が得られず、車両購入代金を払えなくなるケースも増えている。この問題に対応するため、軽貨急配では、2003年3月期から個人事業主の新規募集を抑制。加えて、今年8月からは契約後20日以内なら個人事業主の意思で契約を破棄できるようにした。

 車両やドライバーを抱えずに運送事業を営める会社。自分の裁量で働く自由を手にする個人事業主。軽貨物運送が双方にとって魅力的なビジネスであることは間違いない。しかし、その魅力はリスクと裏腹の関係にあることを、今回の事件は浮かび上がらせたと言える。(国司田 拓児)